2016年05月12日

一昨年の夏、砂にハマった女を助けたら恋に落ちそうになった話し... 番外編その2−3 冒険

遥か向こうに大島海水浴場が見える。
海には無数の黒い豆粒が浮かんでいる。ブイだろうかそれとも人の頭だろうか
遠くなのでよく分からないが波に揺られながらプカプカ浮いているように見える。

とりあえず歩き出した私達だが、娘は早くも草履を脱いで波打ち際を裸足で歩いている。
海岸にはまばらに色んな物が打ち上げられているが、足を怪我しそうな危険そうな物はないので大丈夫だろうと思う。

海も砂も綺麗だ。

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そう言えば、娘の名前すら聞いていなかったのだが、二人しかいないので、話す時は一対一だから知る必要もない。

向こうもそう思っているのか、名前はおろか深い事は何も聞いてこない。
かえってそれが心地いい事もある。
いらぬ事を根堀葉堀聞いてくる人がたまにいるが、この娘はそういう人ではないようだ。

しかし向こうは私の事をどう思っているのか、
ハマったのを助けたので、とりあえず、悪い人ではないとは思っているだろう。
男性として意識はしているだろうか、それとも人畜無害なただの人のいいお兄さんと思っているだろうか
それとも何も考えてないのか...
今のところは皆目見当もつかない。

私から見ればこの娘は
「スレてない」という表現が適切かどうかわからないが、
「世間知らず」とでも言うか「いい子」とでも言うか、多分ご両親に温室メロンのように大切に育てられた子なんだなと思う。
話し方とか、行動とか、見ていて何となくわかる。
男性に対しては、構えるとか極度に警戒するとかはなさそうだ。
もしかしたら男の人ともまともに付き合った事もないのかもしれない。
口にはしないが、今のところはそんなふうに思う。

出合ってまだ数時間、お互いにわかるはずもないのだが、
ただ、私がこの不思議な娘に何となく惹かれているのは確かな事だ。


ここの海岸は千里浜とは違った趣がある。
千里浜は少し整備された浜だが、ここは手付かずの自然のままの浜のようであり、かえってそれが新鮮に思う。
私達は他愛もない話しをしながら盛り上がる。

私「そういえばこの辺ってUFOがよく出るらしいね」

娘「あ〜、その話し聞いた事ある。今はどうか分からないけど、昔々はよく飛んでたらしいよ。」

私「だよね、来る前にネットで調べてたらそんなような記事が載ってたよ」

若い女性はUFOネタとか幽霊ネタは結構好きな人は多いようだ。

後で分かった事だが、この近くに「コスモアイル羽咋」という宇宙系の博物館もあって
そこに収蔵されている古い文献にも
「大きな鍋が夜な夜な不思議な光を放ち空を飛んでいた」とか、
「そうちぼん(円盤)が空を飛んでいた」とか書かれているそうだ、その博物館次回は是非行ってみたい。

それからも色々話した。今後の旅行の予定、明日は能登半島を一周して、明後日はもう一度千里浜を走って帰る事とか。
だだっ広い場所に二人しかいないので、歌を歌ったりもした。
娘は「いきものがかり」が好きだそうで(実は私も好き)「あなた」を一緒に唄ったり
私はスピッツが好きなので歌ったり、と言っても、この娘が産まれた頃に流行った「ロビンソン」とか「チェリー」とか
この娘がちゃんと知っていたのには驚いた。名曲としてそれだけ世の中に広く浸透しているという事だろうか

人前で歌を歌う事は結構恥ずかしい事なので、一緒にそういった体験をすると団結心が生まれるというか、
何かこの娘に対して持っていた、お互いに口に出して聞かない部分とでも言うのか、もやもやしていた感情が吹っ切れ、表面的な明るさだけの部分で話しがつながっていくようになる。

そうこうしているうちに、さっき海に浮かんで見えていた黒い豆粒が人の頭だと認識できる距離まで近づく。

大島海水浴場は能登でも屈指の水の綺麗な海水浴場のようだが、いかんせん遠いという事もあり
休日は賑わうのだろうが、平日はそれほどでもない、浜には5、6人が寝転がったり砂遊びをしていたり
海に浮いているのは10人ぐらいだろうか、海の方から若そうな男女の声が聞こえてくる。グループのようだ。

30分ほど歩いて来ただろうか大島海水浴場に着き、娘は浜で波とたわむれている。
ずーと波とたわむれながら歩いて来たので、今さらその表現はおかしいかもしれないが、

私は丘の方にある建物へ行き、キャンプ場の方を見てまわり、
結構広そうで、手前の方しか見てないが、なかなか良さそうな施設だと思う。
松の木の下の日陰2箇所にテントが張られている。2組ぐらいの家族連れが今夜泊まるようだ。

私も予約をしようかどうか迷ったが、浜に1人きり置いてきた娘の事が心配になって浜に戻る事にした。
娘を送らないといけないという頭もあり、時計を見れば、5時を回っており、
千里浜まで戻る事を考えれば、あまり帰りが遅くなるのも娘の家族に心配をかける事になり、悪いと思い浜に戻り娘の近くに行き、娘と一緒に波とたわむれる(何やってんだ)

リュックからペットボトルのお茶を取り出し娘に手渡す。

娘「さっきもらったけど、いいの」

私「いいよ、飲んで」

娘「お兄さん、飲み物とかたくさん持ってきてるんだね」

私「4日分だからね。まだ結構残ってるし、売るほどあるよ」(笑)

娘「食べ物とかはどうするの」

私「コンビ二でサンドイッチとかおにぎりとか買う。持ってきているものは乾麺とかが多いね、カップラーメンとかね」

正直、夏の旅は食欲がそんなに湧かない、お昼もおにぎり一個とかで構わないくらい。
飲み物もジュースやお茶とかよりただの水の方がいい。ただの水も結構な量持ってきている。

娘「そういえば、予約とれた」

私は適当な事を言った「誰もいなくて取れなかった...でもいいよ、何とかなるから、とりあえず戻ろうか」(今日は車中泊かな)

娘「うん」

歩いて元来た浜を帰る。辺りは私達が出会った昼間のような眩しさはすでにない。
それでも娘は鼻歌を歌いながら、なんだか楽しそうだ。

私「きれいな海だよね」

娘「きれいだね、歩くって聞いた時はえっ、て思ったけど、意外にいいね」

私も草履を脱いで、裸足で浜を歩く。恐らく私達の前後1キロには人はいないと思う。
何という人口密度の低さ、未だかつてこんなに人口密度の低い場所へ来た事がない。
無人島にでも来てしまったかのような錯覚に陥る。

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娘も同じ事を考えていたのか、

「なんか無人島に来ちゃったみたいだね」なんて言う。

私「でも食料には困らないかも」

そう言って私は波打ち際の砂をめくる。すると小さなピンク色の貝がたくさん出てくる。宝箱に詰まった宝石のようだ。

娘「まぁきれい、でもそれ食べられる」

私「どうだろう...」

貝たちはすぐに砂に潜って消えてしまった。
自然が豊かで景色も綺麗だが、私はこの場所の夏の一場面しか見ていない。
きっと冬は長く厳しい自然環境なのだろうと思う。
それでもこんな素敵な場所に住んでみたいと思う。

海からの風で娘のソバージュが揺れる。
その香りと潮の香りが混ざり、この景色が香りと共に私の脳に記憶として刻み込まれていく。
この先どこかでこの香りに出会えば、この景色が目の前にパッと広がるのだろう。


やがて私達は車の止めてある場所まで戻り、車に乗り千里浜の娘の車が置いてある浜まで戻る。

娘「お兄さん、ごはんとかどうするの」

私「日が沈みきる前に、ここでお湯を沸かして、そうめん(温麺)を食べるわ」

娘「へぇ〜、面白そう」

私「よかったら食べる」

娘「いいの、うれしい」

波打ち際にお尻を向けた車の後部ハッチを空けて、テーブル付きのパイプイスを取り出す。
その上ででお湯を沸かして麺をゆでる。
紙コップに麺つゆを入れて、娘はイスに、私は車の後部ハッチに座り二人で海を見ながらそうめんを食べる。

娘「おなかペコペコだったの、おいし〜ね」

私「そうだね、どんどん食べて」

 「ところで家の方大丈夫、若い娘が帰りが遅いとご両親が心配するよ」

娘「8時ぐらいにお父さんが帰ってくるから、それまでに家に着けるようには帰るね...」

 「お兄さん、はじめて私の家族の事聞いたね、お兄さんって不思議ちゃんだよね」

私「なに、不思議ちゃんって」

娘「ごめん、年上なんで不思議さんかな。私の事なにも聞かないし、自分の事なにも話さないよね」

娘もその事は一応意識していたんだ。何も考えていなかった訳ではないようだ。

私はしばらく考え言葉を選んでこう言う「そうだね。でもそれはそれで心地いいでしょ」

娘「うん...」

娘「お兄さん... 明後日も千里浜に来るんだよね」

私「うん、明日は能登半島を一周して富山県側の付け根にある、道の駅氷見で車中泊して、明後日早朝に出発、朝9時には千里浜で一旦休憩して越前海岸を通って敦賀方面を目指して走る予定だよ」

娘「じゃあ、明後日の朝9時にここに来れば会える」 娘の声が弾む。

私「うん、会えるよ」

娘「うん、待ってるね」

自然にこの娘とまた会う約束をした。

娘の方から言ってくれた事が何か嬉しかった。明後日またこの場所でこの娘に会える。
そう思うと名前とか電話番号とか知る必要などなかった。
本当は聞いておきたかった。「でも、それは明後日まで先延ばしかな」そんな言い訳が頭の中を流れる。

運命のレールはここで終わるのか、それとも続くのか、明後日まではとりあえず小休止。
どこに繋がっているか分らないレールの行き先を自分で決める事は出来るのだろうか。

7時を少しまわり日は落ちても、辺りはまだ少し明るかった。そうめんを食べた後、二人で千里浜を眺めていたが、
私が娘に「まっ暗になる前に行った方がいいよ」と帰るようにうながす。

娘は「じゃあ、そろそろ行くね、またね」
娘は振り向き様、笑顔ではあったが、顔の前で小さく手を振って去って行った。
少し不安を抱えたような寂しげな表情に見えた。なぜそんなふうに見えたのか分らない。
その表情と手の振り方で、高校生の頃付き合っていた彼女「佐和子」の事を思い出した。

高2の冬、佐和子と付き合う前の段階の事。
初めて二人きりで会って、帰る時バスターミナルで彼女がバスに乗る前、私の方を振り向いて、笑顔で手を振った姿によく似ていた。その少し不安げな寂しげな表情はさっきの娘の表情に似ていた。何でそんな事を思い出したのか、不思議だ。

しばらくはそのまま海を眺め、そこで寝てもよかったのだが、
さすがに暗く、治安とかトイレの事とか考えると「道の駅」の方がいいかと思い
高松サービスエリア(道の駅高松)まで移動し端の方に留める。
駐車場には車中泊らしき車が10台位はいただろうか、他の車の事が気にならないというのは嘘になるが、
同じような車中泊の車がいる方が安心な気がする。

1人で知らない場所で車中泊を体験した方なら分かると思うが、日が落ちて寝る場所も定まっていないというのは、もの凄く不安な気持ちになるものだ。車中泊ならまだしも、リュック一つのバックパッカーや自転車旅の方だったらもっと強い不安に襲われるかもしれない。

車内で懐中電灯を点けて明日の予定、道順などを確認して、今日の出来事を思い出して、長い一日だったと振り返る。
窓を3センチぐらい空けホームセンターで買った車中泊グッズの虫予防のネットを付けて風通しをよくしてはいたが
夜10時を過ぎても車内の気温は30度を越えており、車の中ではとても眠れそうになかったが
明日たくさん走らないといけないし、一生に一度行けるかどうかの能登半島一周の旅に期待しつつ
疲れている事もありそのまま眠りについた。



番外編その2−4 葛藤の末 に続く...

posted by 水島登 at 07:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記